ぞんびだ!2−2

黒い貨車が黒い物体を山積みにして、左から右へと次々と通り過ぎていく。踏切が閉じて列車が通り始めて、ずいぶん時間が経っているような気がするけれども、貨車はまだ途切れない。長い長い列車だった。 横を見るとぞんびださんが腕の皮膚をめくって遊んでい…

ぞんびだ!2−1

前の1、2、3を1−1、1−2、1−3に変更しました。 交通量の多い国道から外れた。真新しい道路が前方に延びているが、車は全く走っていない。さすがは北の大地。ここからが本当の長距離運転の始まりだ、と僕は心を引き締めた。横に座るぞんびださんは窓…

ぞんびだ!1−3・終

この文章を書くきっかけになった西直さんのつぶやきを、本文中で一部改変して使っています。 http://twitter.com/nisinao/status/13376066826 Wii Fitをしている最中、突然メロディーが聞こえてきた。クルマやビールのCMで使われていそうな一昔前の歌だ。…

ぞんびだ!1−2

ぞんびださんがソファーに残したビニールの包装とアイスの棒ををかき集め、コンビニの袋に入れる。それを部屋の隅のゴミ箱に捨てた。振り返るとすぐそこにぞんびださんがいた。全く気配に気付かなかった。 「脅かさないでください」 「ねえ、お金」 そう言っ…

ぞんびだ!1−1

西直さんのゾンビ少女に触発されました。 ぞんびださんの部屋には冷蔵庫がない。 「だって私、食事する必要ないし」 ショートパンツ姿のぞんびださんはそう言いながら、僕が買ってきたアイスの箱に手を伸ばす。ファミリーサイズ、6本で315円(税込)。高…

私信(後で消すかもしれません)

(あの人のあのつぶやきに対して) 書いたら読みますよ。そういうジャンルだから特に楽しみ、というわけではなく(強調)、何だか言い訳っぽくなっていますが、いつも普通に楽しく読んでいます、ので……。

発泡酒24本入りケースと踏み切り2

短編第86期に『見えない線』というタイトルで投稿したものです。 歳下の同居人が絵を描いている横で、私はゴルフ中継を見ている。彼女の周りにはカラフルな本が積まれている。それらは全て資料だ。日曜日、朝。私は発泡酒を飲む。 帽子をかぶったゴルファー…

いっそバターになってしまおう

男の一人暮らしの部屋に転がり込んできたモカは、大きなバッグを部屋の隅に置くとすぐにキッチンの探検に向かった。戸棚を開けたり、シンクに水を流したりしはじめた。予想の範囲内。掃除はしておいた。しかし彼女の様子を後ろから眺めていると、ふと上司に…

友人ハナのこと5・終

ハナの上達が早いのか、それとも私が昔の実力を保っていたのか、わりといい勝負になった。乱戦模様である。さっきからハナは手駒を立てたり、はさんで回したりしている。次はハナの番だ。私の角行がハナの陣に飛び込み、竜馬に成った。それに対して考え込ん…

友人ハナのこと4

「え、何で制服着てるの? ていうか、高校生?」 動揺を隠さずに私はハナに問いかけた。ファミレスに先に来ていたハナの彼が、席からこちらに向けて手を振っている。隣を見るとハナはすましたような顔をしている。そして何だか目が生き生きしている。 やられ…

友人ハナのこと3

「将棋」 「ふうん、将棋ねえ」 私は答える。 「驚かないの?」 ハナは不満そうに尋ねてきた。近くのファミレスまで二人で歩いているときのことだ。ようやくハナの新しい趣味の話になった。 今日は土曜日。朝一番に私の部屋にハナがやってきて、しばらく二人…

友人ハナのこと2

ハナと私は違う大学に行っているので、なかなか会う機会が少ない。最近はSNSでお互いのページをのぞいてみたり、思い出したときにメールをやりとりしたりするような関係になっている。で、なぜかハナは会うとなったら必ず私の部屋へとやってくる。外で待…

友人ハナのこと

高校からの友達であるハナは、次々と違う男を彼にするので、久しぶりに会ったときにはまず過去にさかのぼって話をしなければならない。 「でもよくそんなに簡単に男ができるよね」 履歴を一通り確認すると、私はいつもこう言う。 「だって何かあきちゃうんだ…

ぬこ3

「猫はちょっと」 紺のスーツを着た若い男があいまいに告げた。サヤカとヒナコとぼくは金融機関に来ていて、今まさに自動ドアが開いて中に入ったところだった。猫というのは、サヤカの腕の中にいるヒナコのことだろう。 この建物に入ってすぐに気付いたのは…

ぬこ1.5

短編第79期に『春と食欲』というタイトルで投稿したものです。 「ねえ、味噌汁変えたでしょ」 サヤカの不機嫌な声がした。僕は頼まれたケチャップを冷蔵庫から取り出そうとしていたのだが、サヤカはすぐ後ろに来ていた。 「袋は? もう捨てた?」 今朝開封し…

ぬこ2

ぬこ(前回) よい天気の土曜日、サヤカとヒナコと僕は散歩に出かけることにした。 まずヒナコに猫用の特別なリードをつける。胴輪といって、両前足と胴体の三つに輪がかかるようになっているものだ。今のところ意識は猫ではなくヒナコなので、取り付けると…

発泡酒24本入りケースと踏み切り

かわいさと残虐さを兼ね備えた絵を描くブラックストーン氏は、私にとっての『神』である。ウェブ上でかいま見せるイメージとは異なり、神は小柄で大変かわいらしい女の子であられる。私がオタ全開だった時に神の作品に出会ったのだが、それは五、六年前のこ…

【降臨賞】そして伝説へ

「立たないフラグは」 私がそう言うと、ルリはうれしそうな顔をした。『フラグ』という言葉の意味はルリから教わったのだった。私は続ける。 「無理やり立てましょう」 ルリも応える。 「ホトトギス」 言い終えると、少しリラックスできた。ホトトギス、とい…

量子的な少女

一人暮らしをはじめてから数日経ったとき、突然彼女は部屋の片隅に現れた。長い髪がまず目に入った。それから透けるように白い肌。というかそれは本当に実際透けていて、向こう側の壁の模様が見えることもあった。SFのストーリーに出てくる、立体映像のよ…

『数学ガール』読了とそれに伴う募集について

出張ついでに買いました、『数学ガール』。で、新幹線の中で読みました。大体の内容はwebで既読でしたが、一冊の本にまとまったことで交響曲へと昇華したような気がしました……ええと、音楽ど素人のくせに、知ったかぶった例えを使ったのですが、数学を音楽に…

ぬこ

朝刊を五紙抱えてリビングへ向かった。ドアを開けて中に入ると、サヤカがソファーにだらけて座っているのが目に入った。着ているパジャマのボタンはいくつか外れていて、きわどいことになっている。 「おそーい」 サヤカは顔も動かさずに言い放った。テレビ…

(5; 彩)大人になりたい

「走ろう会」の面々は自営業だとか自由業だとかをやっている。だから平日の昼間からこうやって宴会ができるのだ……と考えていると、高校生の自分がちょっと悲しくなってきた。今いる川原は暑くもなく寒くもない。皆が座っているビニールシートは青い。あと、…

2

「この前パスポートの更新があったので会社に持ってきたら、なんだか中身をチェックされたみたいでさ。その後部長に呼び出されて『ずいぶん頻繁に海外に行っているなあ』と言われたんだよ」 会社の屋上でタバコを吸いながら、高梨はそう語る。同期入社で同じ…

Patch

LSDは終わっていないのですが、並行して新しいのもはじめました。Patchという題です。

ミルカさん、来た。(結城浩の最新刊『数学ガール・ミルカさんとテトラちゃん』)

[結] 2007年3月 - 結城浩の日記 大体読んでいますが、大幅加筆と改訂があるそうなので気になります。買うと思います。 ところで作者の結城さんが「萌え」を目指すって書いているのですが……。 そうか、読んだときのあの感情は「萌え」だったのか……と今自分に…

1

スーツケースを置くため、部屋の奥に進んだ。そこは倉庫と呼ぶには雑然としていて、棚の上の物などいつ落ちてきてもおかしくない状態だった。無理やり足元にスペースを作っていると、隣に無造作に積んである新しい箱に目が行った。 一番上のを取り上げる。側…

(4; 元沢)一日がもっと長ければいいのに

一日がもっと長ければいいのに、と思う。例えば48時間、いや30時間でいい。そうすると6時間余計に使えることになるから、今の睡眠時間をそのまま陸上の練習に当てられる。それだけではなくて、予習や復習をしたりするのも悪くない。 何かどうも最近何事…

あらすじなんてそんなに気にしなくていいと思う

【小説の書き方を教えてください】 [1] 「喫茶店でコーヒーを頼… - 人力検索はてな上の質問が気になり、久しぶりに書きたい欲が出てきました。アウトプットが以下です。これがメタってやつですか。 一文ずつ解説するのは無理なので、回答はしないことにしま…

(3; はるか)信号が青になったらまた走り出そう

北山は弟そっくりだ、と思う。親が離婚してから滅多に弟に会うことはないけれど、彼と話している時に生じるこの感情は同じ種類のものだ。言いたいことがあるのに黙っている、そういう様子が手に取るようにわかる。そして私は、上から見下ろすようなものの言…

(2; はるか)何も考えずにひたすら走り続けよう

成績上位者を発表するのは、もう本当にやめにしてもらいたい。物理教師はテキパキと名前を呼び上げていたけれど、私の名前と点数だけはわざとゆっくりと読まれたような気がする。 「長曽我部さんは文系志望なのにすごいね」 次に移るまでの間、奴は無言だっ…