ぞんびだ!1−1

西直さんのゾンビ少女に触発されました。

 ぞんびださんの部屋には冷蔵庫がない。
「だって私、食事する必要ないし」
 ショートパンツ姿のぞんびださんはそう言いながら、僕が買ってきたアイスの箱に手を伸ばす。ファミリーサイズ、6本で315円(税込)。高くはない。けれど、親からもらった小遣いをやりくりしている身だから、無造作にレジに持っていけるほど安いものでもない。僕の、そういう高校生らしい小さな葛藤なんか、彼女にとってはどうでもいいことなんだろう。ぞんびださんはあっという間に一本を食べ終えた。そしてもう一度、僕が持つアイスの箱に手をつっこむ。二本目をつかんで、僕のそばから離れる。長く青白く細い足を投げ出すようにして、ソファーに座った。ビニールの包装を手早くむき、かぶりつく。
「食事の必要はないんですよね、確か」
 いつもの疑問が浮かんだが、口に出さないでおいた。


 ゾンビのぞんびださんから、アイスを買って今すぐ来い、という簡潔なメールが送られてきたのは、僕が学校を出た直後のことだった。帰宅部の自分には下校後の予定なんか皆無なので、命令されるがままにぞんびださんの部屋に向かった。アイスが溶けることのないように、ぞんびださんの部屋に一番近いコンビニで買い物をする。自転車で十五分。同じ町内に人外のものが生息しているなんて、ちょっと前までは想像できなかった、というか今も信じられない。


 『ぞんびだ』というのは、僕の考えた名字だ。彼女をケータイに登録するのにその四文字を使ってみたのだ。ひらがな四文字にすれば、かわいらしくなるかなあと思ってやってみたのだが。
 一方、彼女は『りょう』と名乗っている。
「『りょう』ってどんな字を書くの?」
 会ってすぐのころ、僕はそう尋ねた。
「『リョウキ的』の『リョウ』。ほら私、ゾンビだし」
 ぞんびださん(りょう)はとても明るく答えた。分かるような、分からないような微妙な説明だと僕は感じた。リョウキ的って……。
「狩りをする、という意味の『シュリョウ』の『リョウ』って言えばいいのに」
「え、何、本気にしてるの? そんな変な漢字つかうわけないじゃん」


 そんなこともあり、今では心の中で『ぞんびだ』と呼ぶことにしている。