ぞんびだ!2−1

 前の1、2、3を1−1、1−2、1−3に変更しました。

 交通量の多い国道から外れた。真新しい道路が前方に延びているが、車は全く走っていない。さすがは北の大地。ここからが本当の長距離運転の始まりだ、と僕は心を引き締めた。横に座るぞんびださんは窓の外を無言で眺めている。何か思うところがあるのだろう。
 ぞんびださんは昔のことを思い出しているのかもしれない。でも、彼女の昔というのがどれくらい前のことなのか、僕には見当がつかない。ぞんびださんはゾンビだし、僕が過去のことを尋ねても、いつもはぐらかされてきたから。全くおかしな関係だ。
 飛行機の中で熟睡していたので眠くはない。先ほど借りた黄色いレンタカーを、時速60kmで運転する。真夏の昼下がり、車内はエアコンが良く効いていて快適だ。


 平らな道をずっと進んでいたが、やがて上りになった。道路の両側は森、大自然という感じがした。ちょっとした丘を越えたようで、その後すぐに下り坂になった。今度はとても見晴らしがよい。遠くの平地まで道路がまっすぐ続いている。
「すごい景色ですね」
「うん」
 ぞんびださんの少し気の抜けた返事。心ここにあらずという感じだった。
 スピードが出そうなところだが、坂が終わるあたりに信号があるのが見えていたので、僕は注意しながら運転する。その信号は、近づくのにタイミングを合わせたかのように赤へと変わった。
 ぞんびださんが、小さな、驚いたような声をあげた。ちょうど信号で止まった時だ。
「カーナビ、画面が消えちゃった」
 ぞんびださんが指差しているので、体をずらして覗き込んだ。何も表示されていない。信号がまだ赤のままであることを横目で確認して、電源スイッチらしきものを押して再起動させてみる。
「信号、青になった」
 ぞんびださんがそう言うので、僕は画面を見るのをやめ、前を向いて車を発進させた。
「動きました?」
 バックミラーをちらっと眺めながら尋ねた。後ろから車は来ていない。
「全然だめ」
 ぞんびださんが答える。借りた車で面倒なことになった。後でどこかに止まった時にきちんと見てみよう、と思う。通り過ぎてから気付いたのだが、さっき止まったところは交差点ではなかった。
「今の信号、何だろう。あんなところに信号なんて必要なのかなあ」
「あそこは学校。いなかの子供たちが、信号をわたる練習をするの。知らないの?」
 そんなのは知らなかった。生まれた場所が違うからか、それとも時代が違うからか。


「えーと、この後も道なりにずっと行けばいいから」
 見ると、ぞんびださんは道路地図を広げている。ちょっとびっくりした。
「その道路地図、レンタカー屋でもらったんですか?」
「何言ってるの。私が持ってきたに決まっているじゃない。こんなこともあろうかと」
「道、覚えてないんですか?」
「覚えてるよ。でも、もしもってことがあるし。ていうか、早速あったじゃない!」
「そうですね。助かります」
 ここは感謝しておくところだろう。ぞんびださんはしばらくその町を訪ねていないという。道路も景色も変わってしまっているだろう。時間の経過はゾンビにとってより残酷なのかもしれない。
「ケータイはどうですか」
 ふと思ったので聞いてみた。
「うーん、電波が入ったり入らなかったり、かな」
 これだけ広いと、そういうものなのかもしれない、と僕は思った。
 今度は、遠くの踏切の警報灯が点滅し始めた。周りはひたすら水田、あんなところに線路があるとは。遮断機の棒がゆっくりと回転して、道路を遮った。