あらすじなんてそんなに気にしなくていいと思う

【小説の書き方を教えてください】 [1] 「喫茶店でコーヒーを頼… - 人力検索はてな

上の質問が気になり、久しぶりに書きたい欲が出てきました。アウトプットが以下です。これがメタってやつですか。
一文ずつ解説するのは無理なので、回答はしないことにしました。

「あらすじなんてそんなに気にしなくていいと思う」
 向かいに座っているミキが、画面から目を離さずにつぶやいた。ファミレスの安っぽいテーブルの上、二人の間には二台のノートパソコンがディスプレイを背中合わせにして置かれている。僕は自分のパソコンに向かうのをやめ、背筋を伸ばしてそのついたて越しにミキの様子をうかがった。彼女の目が見える。けれどもそれはディスプレイ上の文字をまだ追いかけつづけているようで、こちらを向いてはいない。僕はミキの表情を知りたかった。
「タカシはタカシの好きなように書けばいいの」
 ディスプレイに目を落としたまま、ミキは続ける。
「わざわざ人力検索に回答するってことは、自分の文章を読んでくれってアピールしているのと同じでしょ。自分が気に入らないものを、他人が好いてくれると思う?」
「だからといって、質問を無視したものを書き込むわけにはいかない」
 僕はそう答えた。さっきと同じような返事だ。http://q.hatena.ne.jp/1172426828/を見つけてからというもの、僕とミキはこうして堂々巡りの会話を続けている。主にウェブのチャット、時々声に出して。実際に会っているというのに、僕たちはテーブルの上に置かれたデジタル機器を用いてコミュニケーションをとっている。


 こんなまわりくどい方法をとることについて、ミキは、会話だと周りに聞かれて困ることもあるでしょ、と言う。確かにそう感じるときもある。時々彼女はチャットにおいて別人のようにふるまうことがあるのだ。詳しくかつ差し支えなく換言するならば大胆奔放というか。声と違って聞かれることはないけれども、画面を覗き込まれないように周囲に気をつける点は類似していた。チャットは会話よりもみだらにエスカレートする傾向があるので危険である。涼しい顔をしながらミキはきわどい文を打ち、僕を挑発する。女はいくら興奮しても大丈夫だろうが、男は変化が出やすいので困る。ミキは僕のそんな様子を見て楽しんでいるに違いない。


「コーヒーと間違えて紅茶を持ってくる、なんて現実じゃありえないって」
 回答のために僕は律儀にそういうあらすじのストーリをひねり出そうとしていたのだ。でも考えれば考えるほどその設定が作り物臭く感じられ、自然な文章にはならなそうだった。一方、ミキの考えは違ったようだ。
 彼女は急に立ち上がってドリンクバーのほうに向かい、マグカップを手にして戻ってきた。見慣れたブランドの紅茶のティーパックが浸してある。そして初めて僕のほうを見た。目を丸くして得意げだった。加えてミキの鼻の穴はすこしふくらんでいた。指摘するとむくれるが、それはまんざらでもない気分の証拠だ。
 そこで僕はようやく悟った。この状況下で彼女に『コーヒーを注文していた』ことにしてしまえばいい。つまり架空の話をこしらえるのではなく、現在の僕とミキのことを描写すればいいのだ。


「ねえ、頼んだのはコーヒーなんだけど」
 わざと声を変えて気色ばんだところ、
「ごめん、すぐに替えるから」
 と、ミキはあっさり答えた。ちょっと予想外だった。
「『申し訳ありません』じゃないの?」
 僕がうっかり問うと、ミキは、
「別に私、店員じゃないし」
 と言う。確かに。
「タカシ、何か想像したんじゃないの?」
 ミキが問いかける。上品かつ狡猾な笑みを浮かべて。そして畳み掛けてくる。
「『申し訳ありませんでした』って言わせたかったんでしょ? で、その後、何か無理難題を言おうと思ったのかな?」
「いや……」
「なるほど、そういうのが好みなんだ」
 ミキが勝手にまとめモードに入っているのを見ていて、いやそれは僕ではなくあなたの想像だろ、と僕は突っ込みたかったのだけど、あまりにも楽しそうな彼女の様子につられてにやけそうになってしまう。


 けれども、突然ミキは告げる。
「コーヒーに替えるからこの紅茶、さっさと飲んじゃって」
 そうきたか。確かにドリンクのおかわりは自由だ、しかし同じカップを使い続けるのがルールだ。そしてルールには従わねばならない。
 ティーパックもまだ取っていない、湯気が依然残る紅茶を僕は無言で見つめた。