2009-01-01から1年間の記事一覧

発泡酒24本入りケースと踏み切り2

短編第86期に『見えない線』というタイトルで投稿したものです。 歳下の同居人が絵を描いている横で、私はゴルフ中継を見ている。彼女の周りにはカラフルな本が積まれている。それらは全て資料だ。日曜日、朝。私は発泡酒を飲む。 帽子をかぶったゴルファー…

いっそバターになってしまおう

男の一人暮らしの部屋に転がり込んできたモカは、大きなバッグを部屋の隅に置くとすぐにキッチンの探検に向かった。戸棚を開けたり、シンクに水を流したりしはじめた。予想の範囲内。掃除はしておいた。しかし彼女の様子を後ろから眺めていると、ふと上司に…

友人ハナのこと5・終

ハナの上達が早いのか、それとも私が昔の実力を保っていたのか、わりといい勝負になった。乱戦模様である。さっきからハナは手駒を立てたり、はさんで回したりしている。次はハナの番だ。私の角行がハナの陣に飛び込み、竜馬に成った。それに対して考え込ん…

友人ハナのこと4

「え、何で制服着てるの? ていうか、高校生?」 動揺を隠さずに私はハナに問いかけた。ファミレスに先に来ていたハナの彼が、席からこちらに向けて手を振っている。隣を見るとハナはすましたような顔をしている。そして何だか目が生き生きしている。 やられ…

友人ハナのこと3

「将棋」 「ふうん、将棋ねえ」 私は答える。 「驚かないの?」 ハナは不満そうに尋ねてきた。近くのファミレスまで二人で歩いているときのことだ。ようやくハナの新しい趣味の話になった。 今日は土曜日。朝一番に私の部屋にハナがやってきて、しばらく二人…

友人ハナのこと2

ハナと私は違う大学に行っているので、なかなか会う機会が少ない。最近はSNSでお互いのページをのぞいてみたり、思い出したときにメールをやりとりしたりするような関係になっている。で、なぜかハナは会うとなったら必ず私の部屋へとやってくる。外で待…

友人ハナのこと

高校からの友達であるハナは、次々と違う男を彼にするので、久しぶりに会ったときにはまず過去にさかのぼって話をしなければならない。 「でもよくそんなに簡単に男ができるよね」 履歴を一通り確認すると、私はいつもこう言う。 「だって何かあきちゃうんだ…

ぬこ3

「猫はちょっと」 紺のスーツを着た若い男があいまいに告げた。サヤカとヒナコとぼくは金融機関に来ていて、今まさに自動ドアが開いて中に入ったところだった。猫というのは、サヤカの腕の中にいるヒナコのことだろう。 この建物に入ってすぐに気付いたのは…

ぬこ1.5

短編第79期に『春と食欲』というタイトルで投稿したものです。 「ねえ、味噌汁変えたでしょ」 サヤカの不機嫌な声がした。僕は頼まれたケチャップを冷蔵庫から取り出そうとしていたのだが、サヤカはすぐ後ろに来ていた。 「袋は? もう捨てた?」 今朝開封し…

ぬこ2

ぬこ(前回) よい天気の土曜日、サヤカとヒナコと僕は散歩に出かけることにした。 まずヒナコに猫用の特別なリードをつける。胴輪といって、両前足と胴体の三つに輪がかかるようになっているものだ。今のところ意識は猫ではなくヒナコなので、取り付けると…

発泡酒24本入りケースと踏み切り

かわいさと残虐さを兼ね備えた絵を描くブラックストーン氏は、私にとっての『神』である。ウェブ上でかいま見せるイメージとは異なり、神は小柄で大変かわいらしい女の子であられる。私がオタ全開だった時に神の作品に出会ったのだが、それは五、六年前のこ…

【降臨賞】そして伝説へ

「立たないフラグは」 私がそう言うと、ルリはうれしそうな顔をした。『フラグ』という言葉の意味はルリから教わったのだった。私は続ける。 「無理やり立てましょう」 ルリも応える。 「ホトトギス」 言い終えると、少しリラックスできた。ホトトギス、とい…