友人ハナのこと2

 ハナと私は違う大学に行っているので、なかなか会う機会が少ない。最近はSNSでお互いのページをのぞいてみたり、思い出したときにメールをやりとりしたりするような関係になっている。で、なぜかハナは会うとなったら必ず私の部屋へとやってくる。外で待ち合わせたりとか、覚えている限り一度もない。
 外じゃなくてウチがいい、というなら、私もハナの部屋に興味があるのだけれど。でもなんとなく私からは切り出せないでいる。ハナは彼と同棲しているかもしれない。ハナの部屋に入ると、男との生活の痕跡のようなものに気付いてしまうかもしれないし、ひょっとしたら実際に彼がドアを開けて私を迎え入れてくれたりするかもしれない。
 私がこのように無駄に心配する一方で、今日もハナは私の部屋にやってきてリラックスしている。壁にもたれかかり、足をカーペットに投げ出して座っている。カラーボックスからマンガを取り出し読みふけっている。おかしい。今までハナの新しい彼やダイキの話とかしていたはずなのに。
 ハナは読みながら時々コーヒーを飲んでいるが、これは私がいれたものではない。私はコーヒーを飲まないので、ハナは自分でいれている。棚からお客さま用のコーヒーとカップを取り出して、いつもハナは手際よく準備する。私には紅茶をいれてくれる。勝手知ったるなんとかというやつ。


 ハナが黙々と読み続ける間、私は大学のレポートの課題文書と格闘していた。すんなり頭に入るわけはないと思っていたけれど、やっぱりそのとおりで、数行進むたびに余計なことを考えてしまう。例えば前回ハナが来たときのこととか、ダイキが訪ねてきたときのこととか。
「メグに会いに来たんだ」
 あの時ダイキは酔っ払ってやってきた。深夜だった。ものすごく赤い目だったことを覚えている。
「つーか、ダイキは寝れたらどこでもいいんでしょ」
「何を言ってるんだ俺は……」
 ダイキは口ではそう弁明し、でも体はへろへろで、にも関わらず私の服を脱がそうとするものだから、当然のようにケンカになった。


 いやな記憶を振り払い、私はハナのほうを見る。ものすごい集中力。マンガは私の部屋にいるときしか読まない、とハナは前に言っていた。その言葉を聴いたときには、私はひどく動揺し、自分のことを省みて口がうわうわっと動いた。
 今ハナのひざの隣には、十数巻発行されていてまだ連載が続いているマンガの、中盤の数冊が積まれている。このマンガが、私の部屋にいつも来る一つの、いや最大の理由かもしれない……モノを介した関係って何だかなあ。積んである数冊が何巻かを確認した。その速度だったらあとちょっとで読み終わる。そうしたらまた聞いてみよう。