友人ハナのこと4

「え、何で制服着てるの? ていうか、高校生?」
 動揺を隠さずに私はハナに問いかけた。ファミレスに先に来ていたハナの彼が、席からこちらに向けて手を振っている。隣を見るとハナはすましたような顔をしている。そして何だか目が生き生きしている。
 やられた、彼は普通にタメか年上だと考えていた。今までずっとそうだったし。今朝、ハナは彼の歳について何も語らなかった。私も尋ねなかった。その辺がどうやら、ハナの仕込みだったようだ。何だか悔しい。


 ブレザーを着た彼は広いテーブル席の角に座っていて、私たちが近づくと立ち上がった。結構背が高い。見上げる格好になった。二、三人が一緒に座れる長いイスの席だった。ハナは彼の後ろに回り込み、そのイスの端に腰かけ、それからずりずりと座ったまま奥へと移動した。ハナが移動し終わるとすかさず彼が座った。その一連の動作が、ずいぶんと息が合ったもののように感じられた。
 私も同じように座り、移動し、ハナの向かいで落ち着く。テーブルの向こう、ハナとその彼の両方から視線を感じる。二対一だ。


 ハナにトランプのマジックをしてもらったことがある。当時の彼に教わったというカードさばきは本格的で、そして何度繰り返しても、私の引くカードはハナにずばりと当てられたのだった。私はすっかりハナの術中にはまってしまっており、タネを知りたくて見当違いな質問を繰り返すばかりだった。
「もう一回やろうか?」
 ハナは私の疑問やリクエストに飽きずに楽しげに付き合ってくれた。
 ハナとその彼が親しげに話している最中、ぼんやりそんなことを考えていた。


 夏野菜カレーと日替わりパスタとクラブハウスサンドを食べ終わると、私たちは皿をテーブルの隅によせた。ハナが彼のバッグを手に取り、自然な手つきで中に入っている将棋の駒を取り出した。それから下敷きみたいなものを開く。九かける九のます目が現れた。すぐにハナとの真剣勝負が始まった。ハナは飛車先の歩をするすると進める。私の陣まであと一ます、そのタイミングでハナと目があった。まっすぐこちらに向けられた視線は、ハナの心意気のようにも感じられる。俄然楽しくなってきた。
 序盤から激しい筋を選んだ。駒が盤上というか下敷き上で何度もぶつかった。盤上をハナの彼も凝視している。